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長野地方裁判所 平成5年(わ)138号 判決

本店所在地

長野県上水内郡信濃町大字野尻一九七番地

野尻湖観光開発株式会社

右代表者代表取締役

石田良和

本籍

長野県上水内郡信濃町大字野尻二五四番地の七

住居

同郡信濃町大字野尻一九七番地の二

会社役員

石田良和

昭和八年一〇月一六日生

事件名

法人税法違反被告事件

検察官

佐藤孝明

主文

被告人石田良和を懲役二年六月に、被告人野尻湖観光開発株式会社を罰金四億円にそれぞれ処する。

被告人石田良和に対し、未決勾留日数中一〇〇日をその刑に算入する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人野尻湖観光開発株式会社(以下「被告会社」という。)は、不動産の売買、賃貸及び仲介等を目的とする資本金六〇万円の株式会社であり、被告人石田良和(以下「被告人石田」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人石田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産の取引及びその収支を明らかにする帳簿を作成せず、かつ、売上金を他人名義の預金口座に入金し、営業活動をしていない旨の虚偽の申出書を長野市西後町六〇八番地の二に所在する長野税務署長に宛てて提出するなどしてその所得を秘匿した上、平成元年一一月一日から平成二年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二四億六六七〇万〇五四九円で、課税土地譲渡利益金額が四八億八四三六万五〇〇〇円であったのにかかわらず、その法人税の納付期限である平成三年一月四日までに、所轄長野税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における法人税二四億五一一〇万九五〇〇円を免れたものである。

(証拠)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

一  被告人石田良和の公判供述、検察官調書七通(乙一ないし五、七、八)

一  内田照捷(甲二一)、吉村民夫(甲二二)、幸﨑勝利(甲二三)、伊藤泰治(甲二四)、畠山仁(甲二五)、吉田修一(甲二六)、外谷場吉年(甲二七)、池田直一(三通・甲二八ないし三〇)、萩原巌(甲三一)、佐藤重一(五通・甲三四ないし三八)、丸山正和(甲三九)、石田正士(甲四〇)、田辺慶三(甲四一)、広澤貢(甲四二)の各検察官調書

一  宮沢憲男(甲三二)、小林治伸(甲三三)の各質問てん末書

一  売上高調査書(甲一)、受取手数料調査書(甲二)、受取利息調査書(甲三)、期首棚卸高調査書(甲四)、仕入高調査書(甲五)、期末棚卸高調査書(甲六)、支払手数料調査書(甲七)、旅費交通費調査書(甲八)、消耗品費調査書(甲九)、広告宣伝費調査書(甲一〇)、接待交際費調査書(甲一一)、交際費損金不算入調査書(甲一二)、租税公課調査書(甲一三)、賃借料調査書(甲一四)、雑費調査書(甲一五)、支払利息調査書(甲一六)、車両除却損調査書(甲一七)、給料賃金調査書(甲一八)、道府県民税利子割額調査書(甲一九)、査察官報告書(甲二〇)

一  登記簿謄本(三通・乙九ないし一一)

(法令の適用)

被告会社につき

罰条 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

訴訟費用の処理 刑事訴訟法一八一条一項本文

被告人石田良和につき

罰条 法人税法一五九条一項

刑種の選択 懲役刑

未決勾留日数の算入 刑法二一条

訴訟費用の処理 刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑事情)

本件は、不動産の売買等を営む被告会社の代表者である被告人石田が、判示の不正行為により本件事業年度の法人税二四億円余を免れたという事案である。そのほ脱額が極めて巨額にのぼるうえ、ほ脱率も一〇〇パーセントという悪質な犯行であり、誠実な納税者の税の均衡負担の意欲を阻害すること甚だしいものといわざるを得ない。

被告人石田は、昭和二八年ころ被告会社を設立し、昭和四〇年ころから不動産取引も営業目的に加えて次第に事業を拡大してきたが、昭和五一年ころから経営不振に陥って多額の負債を抱え込んでいたところ、親族である池田直一や同人経営の会社から野尻湖周辺の広大な土地の売却の承諾を得ていたことから、右土地の買主探しに奔走した。その結果、本件事業年度中に被告会社において、右土地を株式会社ケー・ビー・エス開発に七五億円で転売し、その譲渡所得等があったが、被告人石田は、その売却の利益金を被告会社の負債の返済や再建等に充てようと考えていたため、当初から納税意思が乏しく、所轄税務署による来署要請にもなかなか応ぜず、強い要請を受けてようやく来署した際には、被告会社が営業活動をしていない旨の虚偽の答弁をしたり、その後も同趣旨の申出書を提出するなどして本件に至ったものであって、本件に至る経緯や犯行の動機に酌むべき事由が乏しいこと、犯行態様は、右土地取引及びその収支を明らかにする会計帳簿を作成せず、資産隠しのため右土地の売買代金の一部を借名預金等にしたり、所轄税務署長に前述の虚偽の申出書を提出するなど悪質である。更に、被告会社においては、本件事業年度以前から法人税を滞納していたにもかかわらず、被告人石田は、右の土地売買代金受領後、これまでの滞納分や本件事業年度の法人税の支払資産の確保に全く意を用いることなく、被告会社やその関連会社の借入金の返済に充てたり、関連会社の設備投資に充てるなどして、現在までの滞納法人税を一切納付しておらず、これらの諸事情を合わせ考慮すると、被告人両名の本件刑事責任は重いといわざるをえない。

他方、被告人石田において、右土地売買代金のうち一部を借名預金にして資産隠しを図っているが、その預金口座を被告人石田や実父等親族の名義にするなど外部から比較的容易に把握できるものであって、そのほ脱方法に稚拙な面も見られること、いわゆるバブル経済の崩壊により被告会社の資産を処分することが困難なために現時点までの納税が事実上困難になっている面もあることなど酌むべき事情も認められる。

そこで、右事情のほか、被告会社が申告をして土地重課につき実額配賦法の適用を選択していた場合に想定される税額、被告人石田の反省の程度、年齢、経歴、被告会社の営業実態やその他諸般の情状も総合考慮したうえで、被告人両名に対し、主文のとおりそれぞれ量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲宗根一郎 裁判官 松嶋敏明 裁判官 和久田斉)

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